東京高等裁判所 昭和43年(ヲ)628号 決定 1968年10月13日
抗告人 松本興産金融有限会社
右代理人弁護士 熊沢賢博
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨および抗告の理由は末尾添付別紙記載のとおりである。
一、抗告人の抗告理由一、について
抗告人は、原審の本件競売期日の指定は、本件執行手続を一時中止してほしいとの抗告人の上申を全く無視してなされたもので、裁判所の期日指定権の濫用であると主張するか、不動産競売手続において、其の期日を変更し、更に適当な期日を指定することは元来裁判所がその職権に基づいて任意になしうる事項に属するものであるばかりでなく、本件記録によれば、抗告人が昭和四二年七月二〇日付をもって原審に対し、本件競売手続は「都合により債権者(抗告人)より申立があるまで中止相成度」旨の上申をなしたこと(記録八七丁表)、原審が右上申を容れ、同二一日、本件競売、競落期日を追って指定と変更したこと(同裏)、および、同年八月二二日、債務者(本件不動産の所有者でもある)倉沢八郎において、原審に対し、早期解決を希望する故競売期日の指定をされたき旨の上申をなしていること(同八九丁)を各認めることができるのであって、上記認定のごとき事情および経緯の下に、原審が、同年一〇月三一日、本件競売期日を同年一一月二四日、競落期日を同二八日と定めて本件競売手続を続行するに至ったことには、なんら上記期日指定権の濫用と認むべきものありというべきではない。抗告人のこの点についての主張は採用できない。
二、同二、(イ)について
本件記録編綴の「金銭消費貸借公正証書」(記録六丁)によれば、本件競落を許された篠原国雄が、本件競売不動産の所有者である倉沢大八郎とともに、本件強制執行をみた債務の連帯債務者であることは、これを認めることができる。然しながら任意競売についての競売法第四条第二項のごとき規定を欠く強制競売手続においては、自己の不動産が競売される場合の債務者に競買人たるの資格を認めない見解もないわけではないとしても、連帯債務者の一人の不動産が強制競売手続によって競売される場合に、右不動産の所有者でない他の連帯債務者につき単に債務者であるからといって競買人となる資格を剥奪する合理的な理由も、必要も、みいだし難い。抗告人は、連帯債務者に競買を許すことは求償関係において複雑な問題をひきおこすと主張するが、求償関係は、元来、連帯債務者相互の内部関係によって定まるところのものであって、外部関係に立つ債権者(抗告人)の云云する筋合にあらざるものというべく、この点においても、本件抗告の理由として採用の限りではない。
三、同二、(ロ)について
抗告人は、本件競落人篠原国雄は債務者所有の本件建物を買受ける真意を有しないというが、右主張を認めるに足る証拠はなく、却って本件競売調書(記録一三四丁)によれば、右篠原国雄が最高価競買申出人として法律の定める競買価額十分の一に当る現金七万二千五〇円を執行官に預けたことが認められるから同人が本件不動産を買受ける真意を有するものであることを推測し得ないではない。抗告人が民事訴訟法第六百八八条第六項所定の費用を負担せしめられることがあるとしても、右は、一つに抗告人が前の競落人として、代金支払期日に其の義務を履行しなかったことによるものであって、論旨は従らに、この責めを再競売の競落人に帰せしめんとするに出ずるものという他なく到底採用の限りでない。
以上のとおり、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから民事訴訟法第四百一四条、第三百八四条第一項により本件抗告はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 石田哲一 矢ケ崎武勝)
<以下省略>